先日の北海道の地震のときに東京都から送られた支援の液体ミルクの件、道庁が「使用するな」と通達していたというので炎上していたが、道庁がそれを否定したのでデマで片付いたのかと思っていた。
今になって文書が出てきて、再燃しているようだ。
まだ日本ではほとんど誰も使ったことのないものを、災害時の混乱の中でうまく使えるか不安になるのはよくわかる。わかるけれども、同じ日本の中で東京都の備蓄から送られたものなのだから、「使うな」と言う前に都に問い合わせてみるくらいのことはすべきだっただろう。
まあそれはお役所体質とかそういうものの問題として置いておいて、「災害時に赤ちゃんのミルクをどうするか問題」は、依然としてまた別の重大事項だ。
私自身は子供もいないし子育て経験もないが、身近で乳児を抱えた親御さんの話を聞くにつけ、調乳の手間というのはなかなかの負担のように思われる。ましてや災害でインフラが破壊されたとき、清浄な水を調達して、お湯を沸かし、清潔な哺乳瓶で粉ミルクを溶かして、人肌まで冷まして…というのは、想像するだに困難な作業だろう。
これから液体ミルクが普及していけば状況は良くなるだろうが、赤ちゃんの口に入るものだけに、今回北海道で発生したような抵抗にぶち当たることはまだまだあるんじゃないかと思う。
さて、乳児に特に縁があるわけでもないのにどうして粉ミルクの話題を書こうと思ったかというと、私がフランスで暮らし始めて非常に驚いたことの一つが、フランス人はどうやら粉ミルクを水で溶かすらしいということだったからだ。
渡仏後に職場の人2人にお子さんが生まれ、それぞれミルクをあげる場面に立ち会ったが、どちらも粉ミルクを常温の水で溶かしていた。出先で調乳するのも、哺乳瓶に粉を入れて、ペットボトルのミネラルウォーターで溶かして、それでおしまいである。赤ちゃんの方もそれで普通に飲む。
たまたま私の実験台のゴミ箱がそのへんで拾ってきた粉ミルクの容器だったので、説明書きを読んでみたが、やはりeau froide (冷たい水)で溶かせと書いてある。なぜかエビアンの水が推奨のようで、ご丁寧にイラストもエビアンだ。
溶かした後に腕の内側にミルクを垂らして温度を確認しろとは書いてあるが、そこまでに特に温めるステップもないので、人肌の温度とかではなく、冷たすぎなければ別に良いということなのではないかと思われる。
子育て経験のない私でも粉ミルクはお湯で溶かすのが常識だと思っていたので、これは結構なびっくり異文化ポイントであった。
そんなところに例の災害時のミルク問題が目に入り、そもそも粉ミルクのためにお湯を沸かすのは必須なのか?という疑問が生じたわけだ。
調べてみると、粉ミルクをお湯で溶かすのにはちゃんと根拠があった。70℃以上のお湯で調乳することで、粉ミルク中に混入しているサカザキ菌やサルモネラ菌のリスクを大幅に減らせるということで、WHOのガイドラインにもきちんと書かれている。
どうやらこのガイドラインは、まさにフランスで2004年に発生したサカザキ菌のアウトブレイクを受けて作られたもののようなのだが…。フランスでは未だに水で溶かしている。
フランス人が呑気なだけなのかもしれないが、その後10年以上問題になっていない程度のリスクであるということでもあるのかもしれない。
日本の粉ミルクはお湯で溶かす前提で作られているし、フランスでは水だから日本でも水でいいじゃんと簡単に言えるものではない。もちろんお湯が手に入るのならお湯で作るに越したことはない。
ただ、災害時のお湯を沸かせない状況では、お湯がないからミルクが作れない!となるよりは、水でなんとかするという選択肢もなくはないということなのかなと思う(きれいな水が手に入る場合に限るけれども)。
熊本地震のときに厚生労働省から出された文書にも、「お湯が用意できないときは衛生的な水で粉ミルクを溶かす」と書かれている。
粉ミルクは、現時点では無菌にすることが技術的に難しいらしい。だからこそお湯で溶かすことが推奨されているわけだ。それを気にしながら使うくらいなら、結局滅菌済みの液体ミルクのほうが安全なんじゃないだろうか。
話が戻ってきてしまったが、やはり液体ミルクのアドバンテージが広く認識されて、早く普及するといいなあと思う次第だ。

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