革命とGilets Jaunes

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ちょうど日本のニュースがカルロス・ゴーン逮捕で大騒ぎになる直前くらいに、道路が車で埋め尽くされ、交通が麻痺した日があった。その直前まで遠出続きだった私は少し疲れて引きこもり気味だったせいもあり、出勤の時に「なんかえらく車がたくさんいるな」と思った程度で、何が起こっているのか全然知らなかった。この日が「ジレ・ジョーヌ」の始まりだったのだ。

 

この渋滞は、ガソリンや軽油にかかる燃料税の増税に反対する全国規模のデモが道路を封鎖したせいで発生したものだった。デモとは言うが、明確なリーダーがおらず、あまり組織化もされていないため、パリなどでは一部が容易に暴徒化し、破壊や掠奪が起こっているということのようだ。彼らは事故の時や道路工事の際などに着用される黄色の安全ベスト=gilet jaune ジレ・ジョーヌを着て活動するので、この運動や彼ら自体のこともジレ・ジョーヌと呼ばれている。

この増税は、家賃の高い都市部に住んで車がなくてもあまり困らない富裕層ではなく、郊外に住み都市へ通勤するような、車がなければ生活が立ち行かない層を直撃しており、もともと燃料の値上がりが続いていたところにとどめを刺したような形らしい。

ではこの増税の理由は何なのかといえば、「地球環境」。増税する代わりに、電気自動車など新しいエコカーに乗り換えれば補助する、ということのようだ。

日々の暮らしで余裕がないところにエコがどうだとか言われても知らんがなとなるだろうし、「税金が払えないなら新しい車を買え」みたいなやり方には、正直どこのマリーアントワネットだよという感想しか出てこない。フランス国民の7割程度がこのジレ・ジョーヌ運動に肯定的というのも頷ける話だと思う。

 

だからといって暴力行為は大変いただけない。先週末のパリはだいぶひどかったようで、ニュースでもずっとその様子を流している。ショウウィンドウが割られ、車が燃やされ、人々は商店の品物を奪ってテレビカメラに見せつける。ジレ・ジョーヌが始まるほんの1週間前に初めてパリに行ったばかりだったのだが、同じ街とは思えない荒れ狂いぶりで悲しくなる。

そうこうしていたらどうやら増税は半年延期になったようで、国民の声が政府を動かしたとも言えるが、結局最終的に効いたのは破壊的実力行使なのかもしれないと思うと、なんだか虚しさも感じる。

 

ボルドーは平和だと思っていたのだが、検索してみたら市庁舎と大聖堂の前で結構な騒ぎが起きていたようだ。確かにこの日トラムが止まったとは聞いていたが、ここまでとは。

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ただ、この日はサント・カトリーヌに買い物に行ったり、前の日記に書いた Bohemian Rhapsody を観に行ったりして、それなりに出歩いていたのだが、幸いにというか鈍感なことにというか、全く気付かなかった。それにちょうど次の日にも大聖堂に行ったが、入り口で銃を持った軍人さんが警備に当たっていただけで*1、周辺に騒動の痕跡は何もなかったので、パリのような破壊までには至らなかったのだろう。

 

「どこのマリーアントワネット」と書いたが、ここは彼女をギロチンにかけた”本場”である。僕らすぐ王様の首切っちゃうから、とネタっぽく言うこともあるが、やはりフランスの人々は、自分たちが革命の国の人間であり、市民の力で王権をひっくり返して民主主義制度を勝ち取ったことを誇りに思っている。権力に対しては闘うものなのだ。ストライキもデモも盛んだし、そういうのに多少迷惑しつつも受け入れている感じがする。

そして、おそらくジレ・ジョーヌのニュースに触れた人はだいたいそうだろうと思うけれど、今回の騒動はやはりフランス革命を思い起こさせる。上のリンクにある写真にも、黄色ベストに「出ていけ!ルイ15世マクロン」*2と書いた人が写っているので、彼ら自身も少なからず意識しているのだろう。私は別に歴史にも政治にも明るくないので、だからって何か有意義な分析ができるわけでは全然ないのだが、きっとそういう国の歴史的背景が、ジュレ・ジョーヌたちの行動に影響しているのだろうと勝手に思っている。

 

フランスでいろいろと観光していると、教会などキリスト教関係の史跡で、並んでいる石像の首から上が軒並み壊されていたり、像があるべきスペースが空っぽだったりすることがよくある。これはフランス革命のとき、特権階級だったカトリック教会が市民の敵とされ、破壊の対象になったからだという。そうして多くの貴重な文化財が失われたことは、輝かしいフランス革命の影の面であると聞いた。

先週末のパリの破壊行為の中には、美術館の文化財も含まれており、無残に壊されて半分になってしまった像の顔が何度もテレビに映されていた。それを見ながら、「革命のダークサイド」の話を思い出し、18世紀の革命もこんなだったのかな、とぼんやりと考えた。私にとってフランス革命といえば、ベルばらだったりレ・ミゼラブルだったり、虐げられた人々が崇高な理念のもと闘うドラマチックな物語であったのだが、たぶん実際にはエネルギーを持て余しただけのあまり意味のない暴力もたくさんあったのだろうと思う。

 

二百数十年前もこの1ヶ月も、人々の怒りはもっともだと思うし、立ち上がって闘うことは全く否定しない。ただ、なんというかこんなに長い時間が経って社会が進んでも、野蛮で愚かしい部分はなくならないのだなという、もやもやした気持ちを抱き続けている。

 

追記 12/6夜:

ついに燃料税引き上げは延期ではなく断念されたようだ。Twitterでは #StopViolences というハッシュタグがトレンドになり、冷静に対話をしようと呼びかけられている。良い方へ向かうことを祈る。

*1:別にこれはそんなに珍しいことではない

*2:そこはルイ16世なんじゃないかと思わなくもないが、特に15世が第三身分に重税を課したとかそういう歴史があるんだろうか

  

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