Fête le Vin ボルドーワイン祭り


Bordeaux Fête le Vin 2018 - Bordeaux

 

ボルドーはなんてったってワインの街。ちょっと郊外に行けば広大なぶどう畑が続き、7000を超えるシャトーが土地の特徴を活かしたワインを作っている。

そんなボルドーでは、2年に一度、ワイン祭り Fête le Vin が開催される。

こちらは2018年の英語版サイト。

The Bordeaux Wine Festival

ワイン祭りと聞いて勝手に秋の収穫祭的なものだと思っていたのだけれど、ボルドーのワイン祭りは6月。この当時6月とワインにどんな関係があるのかわからなかったのだが、たいていワイン関係のお祭りは6月と9月にあり、6月はぶどうの開花宣言、9月は収穫解禁宣言を祝うものらしいというのを後から知った*1。それによく考えればその年獲れたぶどうで仕込んだワインが飲めるのは1年も2年も先だし、ボルドーワインは特に長く寝かせることで真骨頂を発揮するものが多いので、まあ気持ちの良い季節にやるのがいちばんいいんだろう。

かくして、ボルドー滞在3ヶ月目にして最大のイベントがやってきたわけだ。6月14日の夜から18日の朝まで5日に渡る長丁場で、どれだけ参戦すべきか思案していたのだが、始まってみれば仕事のあった最終日を除いて毎日通ってしまう結果となった。

というわけで、ほぼワイン初心者な私でも楽しめたボルドーワイン祭りについて、備忘録も兼ねて見どころや参加のポイントなど書いてみたい。

 

 

パスは早めにgetがおトク

さて、ガロンヌ川沿いに設けられた会場には特にチケットなどなくても入れるのだが、ワインの試飲をするとなるとパスが必要になる。

2018年の場合は、6月10日までに公式サイト等で購入手続きを済ませれば16ユーロ、それより後になると21ユーロだった。5ユーロは結構でかい。

Webで購入すると、引き換え券がメールで送られてくるので、それを印刷して当日にチケット売り場 (シャルトロン駅前、カンコンス広場、カイヨー門の向かいのいずれか) に持って行けば、試飲セットをくれる。

ちなみに今回のセット内容は以下のとおり。

  • 試飲パス
  • 試飲用グラス
  • グラス専用ポーチ
  • ボルドー公共交通のチケット (Fête le Vinデザイン)

グラスはFête le Vinのロゴと試飲用の50ccのラインが入ったもので、ちゃんとしたガラス製。扱いには少し気を使うが (落っことして割ってしまった人を何人か見かけた)、そのまま普段使いにもできるし良い記念になる。そのグラスが縦にぴったり入る、首からかける円筒形の専用ポーチは、まさにここでしか見たことのない代物。ワイングラスを運ぶ以外の用途が思いつかないが、それはそれで面白いお土産になるし、何よりこれをかけて歩いていると「参加している!」という気分が盛り上がって良い(単純)。周りを見るとポーチは3色あったようで、引き換えたチケット売り場に対応していたのかもしれない。私はカンコンスで引き換えて、ポーチは赤だった。

 

 

またこの試飲パスには、会場で開かれるワイン教室に1回参加できたり、Fête le Vinグッズが割引になったり*2、ボルドーのいろんな美術館・博物館に安く入れたりと、さまざまな特典が付いている。グラス&ポーチ代とワイン代を考えると、かなりお得なんじゃないかと思う。

料金にはICカードである試飲パスのデポジットが含まれているので、不要になったときや閉会後にパスをボルドー観光案内所に返せば1ユーロ戻ってくる。が、私はなんとなく記念に欲しかったのでそのまま持っている。

見どころ① ワインの試飲

言うまでもないがワイン祭りなので、やっぱりメインはこれ。Dégustationというやつだ。

濃い赤ワインの色をボルドーというように、5大シャトーをはじめとして、ボルドーは赤のイメージがある。でも、実は白もロゼも泡も作っているし、ソーテルヌのような極甘デザートワインもある。そういう多様なボルドーワインの魅力を知ってもらおうという趣向で、川沿いの長い会場に、テーマごとに11のパビリオンが設けられていた。

  • ボルドーとボルドー・シュペリウール(赤)
  • ボルドーとボルドー・シュペリウール(ロゼ、白)/アントル・ドゥ・メール/クレマン・ド・ボルドー
  • バロン・ド・レスタック
  • サン=テミリオン/ポムロール/フロンサック
  • ヌーヴェル・アキテーヌ
  • 甘口白ボルドー
  • ムートン・カデ バロン・フィリップ・ド・ロートシルト
  • グラーヴ/ソーテルヌ
  • コート・ド・ボルドー
  • ボルドーのネゴシアン
  • メドック

ワインの流通を担うワイン商のことを「ネゴシアン」というが、中には買い取ったワインをブレンドしたり、自前で畑を持って生産からやったりするところもあり、そういうワインはネゴシアンの名のもとに販売される*3。バロン・ド・レスタックとムートン・カデはそれの大手のブランドで、それぞれ自社だけのパビリオンを持ち、他のネゴシアンたちもまとまって一つのパビリオンを出していた。それ以外のパビリオンは、主に産地ごとにシャトーの組合のようなものが運営していたようだ。

 試飲パスを提示することで、これら11のパビリオンで1回ずつ試飲でき、そのうち気に入った1箇所でもう1回飲める。合計12杯の試飲だからといっても、同じところでは基本的には1回、最高でも2回までしか飲めない仕組みになっており(パスはICカードなのでごまかせない)、それぞれのパビリオンにはたくさんの種類のワインがあるので、どれを選ぶのか毎回決断が大変である。例えばサン=テミリオンとポムロールとフロンサックを全部試したいなら、もう1枚パスを買うしかない。

お酒のイベントではあるが、いわゆる「お酒に呑まれている」状態の人は本当にいないので、自分のペースを守って平和に楽しむべし。ちなみにパスは誰かと共有しても問題ないので、あまり飲めない人は2人で1枚とかにして使っても良い。

私もそんなに強いわけではないので、朝から晩まで丸2日に分けて少しずつ飲んだ。もちろん「試飲」なので味だけ見て残りは捨ててもたぶん誰も怒らないが、個人的にはワイン祭りに来てそんなもったいないことをする気にはなれなかった。

 

 

会場内にはボルドー近郊のリゾート地アルカション産のミネラルウォーター、アバティーユのブースも出ていた。フランスの水には珍しく軟水なので、とても飲みやすくてオススメ。

さらにパスに含まれているワイン教室(École du Vin)に参加すると、解説付きで何杯か飲ませてくれる。カンコンスの近くの大画面付きステージでやっているワークショップは、パス1枚につき1回参加可で要予約*4。また、これと同じボルドーの École du Vin が通り沿いの小さいスペースで定期的に試飲会を開いており、こちらは特に予約もいらなければ何回でも参加できる。「色を見て、香りをかいで、舌で味わう」というワインテイスティングの基本(たぶん)を教えてくれる。

なんだかんだ試飲12杯にプラス5杯ほど飲んだ計算になり、こうなるともういつ何を飲んでどんな味だったか思い出すのは困難である。ちゃんと学びたい人はメモ必須。

見どころ② 地元グルメ

ワインのパビリオンが点在する間には、チーズ、サラミのようなおつまみ系から、がっつりサンドイッチやバーガー、さらにはフレッシュジューススタンドやアイス屋さんまで、食べものブースもたくさん出ている。屋台だからと侮るなかれ、南西部の特産である鴨肉やフォアグラも食べられる。美食の宝庫であるバスク地方も近いので、そのあたりのハム類やピンチョスなどを出しているお店もあった。

おつまみには不自由しないが、特にごはん系ブースは昼食・夕食時には長蛇の列になるので、うまいこと時間をずらせると良い。

 

 

こちらはとても可愛いチーズ屋さん。盛り合わせが美味しかったが、なんのチーズだったのかさっぱり…。もっとフランス語わかればなぁ…。

見どころ③ 帆船

街中でFête le Vin のポスターが見られ始めた頃、どうして帆船が載っているのだろうと思っていたのだが、答えは明快で、Fête le Vin にはたくさんの帆船がやって来るからだった。

今でこそボルドーいちばんのフォトスポット水鏡や、市民憩いの遊歩道が整備されたガロンヌ河畔だが、その昔は「月の港」としてたくさんの船を受け入れ、ワインを輸出しまくってゴリゴリ稼いでいたわけだ。Fête le Vin には、そうやって発展してきたボルドーの歴史を今に伝えるという意味もあるのだろう。帆船はイベントの重要なモチーフであり、ロゴやポスター等あらゆるところにあしらわれている。

そしてイベント期間中、実際に大西洋から大小様々な帆船がボルドーの港にやって来て、ガロンヌの川べりににずらりと並んだ。帆船たちは昔の軍艦の復元であったりして、必ずしも貿易船や貨物船ではなかったりもするのだが、それでもマストの林立するさまは壮観で、時折鳴らされる汽笛を聞きながら往時のボルドーに思いを馳せると、なんともロマンが溢れる。*5

 

 

そして、嬉しいことにこれらの帆船の多くは中を見学することができる。イベント期間中、午前中は有料予約制で、午後は並んだ人から早い者勝ちの無料で入れてくれる。午前の予約は、大きい船は1隻ごと、小さい船は何艘かのセットで、だいたい5ユーロほどだったと思う。小さい船は見学とは別にクルージングもあったようだ。

クルージングも含めて予約は公式Webサイト上からできるのだが、英語サイトがずっと予約開始前で更新が止まっており、おとなしく待っていたら仏語サイトの方でとっくに売り切れていたという事態が発生した。確実に予約したければ仏語サイトに行くべし。

www.bordeaux-fete-le-vin.com

(2018年のページなので、この先変わるかも。)

サイトの構成は英語版と同じなので、フランス語がわからなくても見比べながらやればおそらくなんとかなる。

船はフランスのものもあれば、スペイン、ロシア、インド…と国際色豊か。一番人気はフランスの船 Belem で、これは復元ではなく正真正銘19世紀に建造され、ブラジルやカリブ諸国とフランスの間で貿易を行っていた商船だそうだ。英語サイトが放置されていることに気付いて慌てて仏語サイトで予約をしたときには、大型船の見学ではこの Belem だけ枠が完売していた。

 

 

船によっては内部を現役だった頃のイメージで展示や飾り付けしていて、映画みたいでテンションが上がる。*6

ワインを飲まなくても、船を見てごはんを食べるだけで十分楽しいと思う。これだけならパスも必要ないので、アルコールNGな人やお子様にもおすすめ。

見どころ④ 花火

5日間のイベント期間のうち、最終日は帆船の出発パレードで午前中だけだが、残りの日は毎晩ガロンヌ川で花火が上げられる。

日本で花火大会といえばだいたい7時から8時くらいにやるイメージだが、夏至を過ぎたばかりのこの時期のボルドーは、10時過ぎくらいまで明るい。なので、花火もまさかの11時半開始である*7。この時間に花火を上げて誰も怒らないのがすごいと思う。

正直花火って日本のお家芸だと思って高をくくっていたところがあるのだが、見てみたらとても良かった。花火そのものも立派なのをたくさん上げているのだが、ショーに物語性があり、ドラマチックな音楽に合わせて花火を打ち上げるので、きれいだったね、だけで終わらない感動がある。これはサン=テミリオンでも同じだったので、フランス、またはヨーロッパの花火はこうやってショー仕立てにするものなのかもしれない。

毎回違うのかはわからないが、今回のテーマはドラゴンで、火を吹くドラゴンの船が川をゆっくり遡り、その周りを水上バイクの人々が船尾から花火を吹き上げながら駆け巡り、それらのバックで大輪の花火が上がるというものだった。今回のドラゴン船のような川の上の演出を見たければ、上背でフランス人に敵わないぶん、川べりで早めにポジション取りが必要。やはりベストはブルス広場前と思われる。

 

 

前景は帆船のマスト。それにつけても花火写真の難しさよ。

 

花火を鑑賞する上で気をつけたいのが、寒さ対策。この時期、昼間は晴れていれば日差しがかなり強烈で、半袖でも問題ないくらいなのだが、日が落ちるとびっくりするくらい寒くなる。川沿いであることもあって、薄手のショールなんかで間に合うレベルではなく、ちゃんと着るものを持っていないと結構つらい。おそらく最適解はウルトラライトダウン的なもの。6月に!?と思われるかもしれないが、地元民でもそれらしきものを着ている人をちょこちょこ見かけた。

花火が終われば会場はクローズする。振り返ればブルス広場が美しい。

 

 

見どころ⑤ コンサートや出し物

会場内にはステージがあり、時間ごとにいろいろなバンドが入れ替わり立ち替わりで演奏してくれるほか、バグパイプの集団が練り歩いたり、船の上で突然歌が始まったりして、ほろ酔いで眺めているとすぐに時間が経ってしまう。夜には川の反対側でワイン付きのコンサートもあったようだが、こちらはあらかじめチケットを買っておく必要があり、例によってフランス語サイトの方で早々に売り切れていたため行けなかった。

また、上に貼った動画にもちらっと出てくるが、ワイン樽を効率よく運ぶために斜めにして転がす伝統的テクニックがスポーツ化されており、「サン=テミリオン樽回しクラブ」的なおそろいのユニフォームを着た人々(小さな子どもたちもいる)が、1日に何回かその樽さばきを披露してくれる。樽といえば、樽作りのデモンストレーションも行われていて、樽を組み上げて中を火で炙るところまで、職人さんが説明しながら見せてくれる*8

出し物とは少し違うが、カンコンス広場には移動式の観覧車もやって来ていた。たぶんこういう組み立て・移動式のものは普通こんなものなのだろうとは思うのだが、ゴンドラ部分がガラスの覆いなどない完全なるオープンエアーのかごが下がっているだけで、「これちょっと身を乗り出したら落ちるよね?」という、日本では見たことのない安全水準のものだった。子どもとかはしゃいで暴れたら本当に落ちるだろうと思う。ちょっとお客様を信じ過ぎではないかと心配になる。

 

 

実際に乗ってみた感想としては、むちゃくちゃ怖かったけどむちゃくちゃ楽しかった(笑) 遮るものが何もないぶん、上からの眺めは最高の一言。高所恐怖症でないなら、あれは乗るべきだと思う。

というわけで

ワイン祭りだけどワインだけじゃない、Bordeaux Fête le Vin。呑兵衛にもお子さん連れのファミリーにも優しい、のんびりしたイベントだと思う。フランス語ができるなら、ワインパビリオンでどんどん相談してお気に入りの1本を探すと楽しいだろうし、たとえフランス語があまりわからなくても、ここに書かれていることくらいは楽しめると思って、ぜひ気楽に行ってみてほしい。

Bon dégustation!

*1:9月にはサン=テミリオンの収穫解禁祭を見に行ったので、こちらについてもそのうち書きたい。

*2:おかげでうっかりポロシャツを買ってしまった

*3:と私は理解しているけど間違ってたらゴメンナサイ

*4:ステージ前のカウンターに行けばよい

*5:ちなみにこの光景を見て最初に浮かんだ感想が「ディズニーシーみたい」だった。我ながら感性が残念と言わざるを得ない。

*6:会場ではジャック・スパロウのコスプレの人も見かけたので、やっぱりディズニーシry

*7:日曜日は11時開始。

*8:さすがにフランス語オンリー